読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

短編小説の集い「のべらっくす」

月1で出題されるお題に沿って短編小説を書く企画です。

【第22回】短編小説の集い「海」 総評

 大変暑い日が続いていますが、今月の総評です。

 

f:id:zeromoon0:20160701121107p:plain

 

〇テーマが「海」ということで舞台を設定しやすかったかなぁと思います。今月は「海」というワードを掘り下げるというより純粋に「海」を舞台にしたお話が多かったかなぁと思いました。やはり「小道具」のようなテーマよりも場所をや時期を想起させるようなテーマの方が書きやすいのかもしれない。

 

〇テーマが舞台になったせいなのか、作品も人間関係の面白みと言うよりも情景描写が中心になるものが多く、どれだけ作品の中で「海」を鮮明に出来るかという方に力を注いでいるような気がしました。また、実在の海ではなく架空の海を描いている作品もあり、「海」という言葉の懐の深さも見えました。

 

〇「海」と言えば「母なる」という言葉が頭につくこともあるように生命誕生の場所でもあり豊かな生命のサイクルを育むところでもありますが、同時に人間にとっては波や潮は命を奪う危険なものにもなります。夏の砂浜は親しみやすいものである一方、深海には暗くて冷たい未知の領域が広がっています。人間は月にまで行ったけれど、深海の全てをまだ知り尽くしてはいない。そんな「謎の隣人」のような海のイメージが主催者は好きです。

 

〇8月の「短編小説の集い」はお休みですが、特別企画は実施中です。肩の力を抜いてこの夏を乗り切っていきましょう。では、少し夕方涼しくなる頃にまたお会いしましょう。

 

【主催者からの感想】

lfk.hatenablog.com

 

 久しぶりの参加ありがとうございます。起承転結が明確になっている作品とは違い、会話のみで独自の空間を創っている印象を受けました。海を目指す映画の話を軸にして、とりとめのない会話を顔もろくに見えない人物たちが展開するのみの作品で、人物描写も「先に居たほう」「あとから来たほう」とだけしかされない。これは日没後ということで相手の容姿がよく見えないということが強調されて、更に男女すら明示されていないので人物の背景もよく見えない。大事なのは「この場所にこの二人がいる」ということだけで勧められる戯曲的な面もあるなぁと思いました。こういう見ず知らずの人と気軽に一歩踏み込んだ会話も出来るような「海」という舞台の説得力は侮れないですね。

 

masarin-m.hatenablog.com

 

 毎回の参加ありがとうございます。今回は想像で描かれた場面が多いと言うことでしたが、穏やかな瀬戸内の海と青森の冬の海の対比はしっかり描かれていたと思います。今回はそんな気負いがあるからだと思うのですが、普段より「描写」と「心情」がきっぱりと分かれすぎていているなあという印象を受けました。まさりんさんの長所は何と言っても「見たものを見たまま書く」というところにあると思っていますので、そうするとそこに心情をそのまま重ねるとやはり取ってつけたような印象があります。「描写」→「気持ち」→「描写」→「気持ち」になっていて、読みやすいのですが反面平坦になっているかなぁと思うのです。抽象的になってしまうのですが、ストンと着地させるお話のほかにもっと「ごちゃごちゃ」としたお話を書かれても面白いかもしれないなぁと思います。

 

nerumae.hateblo.jp

 

 久しぶりの参加ありがとうございます。この世ならざるものに変容した弟を想う話で、その異邦者は陸の常識を知らない人魚姫や人間を超越してしまった八尾比丘尼を連想させます。狙い通り民間伝承風のお話になっていて、人と人を超越したものは一緒に暮らせないというストーリーはわかりやすかったです。また「どんな形であれ弟を弟として愛していた」という一貫した正晴の心情を中心にして、それと青磁の奇行が対になっているのがわかりやすいと更によかったのかなぁと思いました。クライマックスの夜の海は波の音の間に静けさが伝わってくるようで、美しい映像を見たようでした。

 

diary.sweetberry.jp

 

 終末めいた世界の見えないはずの海のお話ですね。この手のIF系で難しいのは、主人公の常識と現代を生きる我々の常識がイコールにならないためにどこまでを「説明」するのか読者との探り合いになるところですね。盲目とはいえ、この世界で生まれた少女は「この世界」についての限定的な知識は持ち合わせていると考えます。そうすると自分のことについて自己紹介をしたりこの世界の前提を「説明」するのが不自然になってしまいます。今回は「見えない」という縛りがあるために表現が難しかったと思いますが、地下世界の変質しているはずの「常識」をもっと押し出すとより枠が広がったかなぁと思います。

 

 

※感想は振り返り等が確認でき次第追加いたします。