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短編小説の集い「のべらっくす」

こちらでの募集は休止になりました。今までありがとうございました。

【第13回】短編小説の集い とりまとめ

 すっかり涼しい風が吹き渡る昨今、ながらくお待たせしました。今月のとりまとめでございます。 

 

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nerumae.hateblo.jp

 

 じんわりする料亭の板前と娘の話ですね。「きゃー駆け落ちでハッピーエンドでよかった!」というのもアリですが、注目は魚を捌く描写のていねいなところですね。魚を捌くと言うのは、最近ではマグロの解体ショーなんかもあるとおりなかなか見るところがあって、その包丁捌きは芸術的なところがあります。そこに注目するとまたこの作品の奥深さが見えてきます。「おとっつあんとしゃべることまで同ンなじになって」で父親と想い人を重ねる小夜子の心情も小粋でいいですね。

 

baumkuchen.hatenablog.jp

 

 水槽の魚と自身を重ねる女性の話ですね。「水槽」というモチーフは美しいのですが、同時に冷たい「拘束」のイメージもあります。それでもフルブラックリボンは水槽でしか生きていけない魚で、拘束を解かれたらおそらく自由の波に押しつぶされてしまうと思うのです。よく品種改良を「人間の都合で」と顔をしかめる人がいるのですが、それもひとつの確かな命だと思うので、出来るだけ肯定してあげたいです。しっかし、妹と弟があまりにも薄情なのはお父さんの行いが悪かったのでしょうか。その辺に主人公の「諦念」が凝縮されている気がしました。

 

sampo.hatenablog.com

 

 徴税を仕事にする男のとりとめもない思考の話ですね。作品のとおり、キリスト教は「魚」と深い縁があるので誰か書いてくれることを期待していました。ありがとうございます。徴税人と言えば、当時で言うと「金にがめつい奴」ということで軽蔑される存在で、この作品でも慣例的に行われる出張が「税金の無駄遣い」として表現されています。現実の世界でもこのようなことは喜ばれることではなく、風刺のように淡々と進んでいく話は面白かったです。後半のナンセンスな男の思考は悪夢のようで、この世界は現実ではない、ということを強調しているようでよかったです。

 

diary.sweetberry.jp

 

 はじめましてこんにちは。深海に潜む巨大生物の話ですね。クトゥルフ神話を下敷きに書いたとのことですが、普通の深海探索系としても面白かったです。「主」のような巨大生物伝説は海に限らずビッグフットやタキタロウやなど山や川などにも存在して、自然に対する畏怖の概念があるのだろうと思います。また、主人公の心情がひとつの方向に流れていて、深海魚をクローズアップしがちな場面もきちんと主人公の心情を掴んでいたところがよかったです。

 

chihiron-novel.hatenablog.com

 

 水族館でプロポーズする話ですね。実咲は功が好きなのかと思ったのですが、葛藤が割と少ないので「恋に恋する」状態で「仲良し三人組」が無くなることの寂しさのほうが上かもしれないですね。そんな少し幼い実咲が親友の大人になる儀式を目の当たりにして、自分も変わらなければと思う成長譚と読むことも出来ると思いました。あとものすごく欲を言うと、最後は純粋な心理描写じゃなくて水槽を泳ぐ魚など実咲の心情と重なりそうなものの動きを入れると「きっぱり気持ちに蹴りをつけた」のか「やっぱり気持ちが残っている」のか読者の判断に完全にゆだねられるのでせつなさ倍増remixになると思います。

 

literary-ace.hatenablog.jp

 

 金魚になった元カレの話ですね。猫と金魚と言えばディズニーのピノキオの組み合わせが思い浮かんだのですが、猫ではなく金魚の方になるというのがかわいらしいです。表現法で気になったのが「」の使い方です。金魚と猫が会話をしているのですが、そこに「」はなく、人間の台詞だけが「」で囲われています。これらは実際に音声で交わされた会話ではない、という感じが出ていいですね。こういう工夫は大好きです。

 

tokimaki.hatenablog.com

 

 さながら現代版人魚姫、のお話ですね。「瞳の中を魚が泳ぐ」というモチーフが美しく、最初は人魚姫視点、それから王子様視点で話を進めることで話に彩りを与えています。更に「もし人魚姫が短剣を使ったら」という結末を悲劇になりすぎず書いていて面白かったです。つまり、彼女は海に帰っていくのでしょうね。余談ですが、最近の子供はディズニーの影響で人魚姫が泡になって消えるのではなく王子様と結婚して幸せに暮らすという結末を信じているそうです。雪の女王といい、きっとディズニーはアンデルセンに恨みがあるのかもしれません。

 

hjsmh.hateblo.jp

 

 毎日が嫌になってしまった鯛に出会う話ですね。冒頭が畳み掛ける短文が軽快で、突拍子もない話ですがぐっと引き込まれました。全体的に「泳げ!たいやきくん」を彷彿とさせながら生簀の中をぐるぐると泳ぐ魚を出口のない人生に見立てていて、きちんと筋が最初から最後まで通っていたのがよかったです。最後に活造りになったというのは、「役に立った」ということなのか「それしか出口はない」ということなのか、投げ出された感じも今回よかったです。

 

alterwerthers.hatenablog.com

 

 はじめましてこんにちは。深海魚になりたかった女性の話ですね。初めてとのことですが、見立てやキャラクターの心理描写など非常に巧みで、「いいもの読ませてもらった!」という感想でいっぱいです。上の方で泳ぐ魚と下の方でゆっくりと泳ぐ魚で抽象的になりそうな世渡りの描写を「スイミー」を使ってがっちりと映像化してみせたところが最高です。また、冒頭とラストで「深海魚になりたかった」というリフレインが効いていて二人のゆったりと揺れている関係が甘くせつなく響きました。素晴らしかったです。

 

masarin-m.hatenablog.com

 

 雰囲気のある空間で語られる「サメ」の話ですね。今回少し時系列が追いにくいところもありましたが前半の盛り場の風景描写が巧みで、やはりまさりんさんはこういうスケッチ風の作品が合っていると勝手に思ってしまいました。「サメ」と呼ばれる男のは何故「サメ」と呼ばれるかが謎解き要素で、おそらく「ライオン」は陸でグループを統括する肉食動物であるのに対して、「サメ」はグループ意識を持たず食いたいものを貪り食う、というイメージからでしょう。しかしサメはサメで好き好んで残酷なことをしているわけではなく、生きるためにやっていることで、サメの存在を否定するのは出来ないんですよね。

 

harubonbon.hatenablog.com

 

 いわゆる八百比丘尼伝説を下敷きにされたお話ですね。人魚姫は恋をして死にましたが、このお話では裏切られた女性が生きながらえると言うコントラストがありますね。この伝説をモチーフにするのであれば今回のような描写はやむを得ないところがあると思いますので、例のシーンは問題ないとは思います。ただ前半が少々説明くさくなってしまったのと、おじいさんの心情が少しわかりにくかったというのがあるので「真実を知って衝撃を受けた」というところに繋がる前段落(おじいさんと人魚のやりとりなど)があればより印象が強くなると思います。

 

nogreenplace.hateblo.jp

 

 巨大な古代魚を見ながら食事が出来る水中レストラン、というのは昔見た夢の話です。ダンクルオステウスとかメガマウスとかラブカとかロマンです。どニッチな終末系、ということでコンソメスープに沈む世界が書きたかっただけです。そんなわけで必然的に人間の話は適当です。書いていて全身ベタベタになった気がしました。

 

 

 今月から「頑張ったで賞」の代わりに総評をここに置きます。今回は「魚」という言葉に「寂しい」だったり「断絶」だったり、そういった印象を持った作品が多いと感じられました。 また「魚を食べる」というモチーフも多く、日本人はやはり刺身がソウルフードなのかと思った次第です。今回にぎやかで幸せな気分になりそうな雰囲気の作品がなかったことからも、我々は魚に対して何か冷たい感情を持っているのかもしれません。また、今月の箇条書き的反省はお休みします。

 


SAKANA-GIRL 谷山浩子 - YouTube

 

 それでは作者の皆様おつかれさまでした。次回のテーマでお会いしましょう。