短編小説の集い「のべらっくす」

こちらでの募集は休止になりました。今までありがとうございました。

【第10回】短編小説の集い とりまとめ

 お待たせしました、とりまとめ記事です。今月は作品が集まらなくてヒヤヒヤしましたが、みなさんのおかげで何とか開催することが出来ました、ありがとうございます。

 

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novels.hatenadiary.com

 

 旅の途中で甘言に振り回されてしまった女性の話ですね。随分と前から「主に海外旅行に行って女性が消える」という類の話は「試着室」「肉達磨」という形で繰り返されてきました。そこに「承認欲求を求める女性」という視点を入れたのは新しいかもしれません。最近では「私は必要とされている」を求めてこういう世界に自ら飛び込む女性もいるかもしれないですね。しかも、この主人公の勘違いしている感じがなかなかありそうで面白かったです。もっと不気味さやおどろおどろしさを求めるならば、最後の段落を切ってしまって「果たしてこの後はどうなるでしょうか」と読者に想像の余地を残すことも面白いかと思います。

 

literary-ace.hatenablog.jp

 

 会社に行かない電車に乗り込んで旅を始めようとする勤めに疲れた人の話ですね。自分は学校は終点が目的地のバス、勤めは会社の近くの社宅で徒歩通勤だったり自家用車だったりという交通手段で来たので電車で通勤通学をしたことがないのです。でも「ここで降りると日常で、このまま目的地を過ぎたら……」みたいな空気は共有したいです。この「日常と非日常が混ざる」というのがこの作品の主かなぁと思います。「旅」になると明らかに非日常ですが、通勤通学は完全に日常なんですよね。遊びに行く人と遊びに行かない人の差は何かというところに焦点があって面白いです。主人公の思考は非日常に向かっているところで「朝練に向かう学生」という日常サイドのワードが飛び込むところが好きです。

 

kalkwater.hatenablog.com

 

 己と向き合う影で己の中で旅をする話ですね。「旅」というワードで「自己内省」にたどり着くのは面白かったです。そして各登場人物の「内面」については詳しく書かないことで説教臭くなりそうな雰囲気を回避して、この世界の中での不思議な雰囲気を損ねていないところが良いと思いました。更にテーマが「旅」であるにも関わらず、ばっさりと旅行の過程を書かないというところもいいですね。あまり匂わせすぎるのもよくないのですが、「読者の想像の余地」というところを残すのはひとつのテクニックだと思います。

 

yama-aki1025.hatenablog.com

 

 時間旅行をしてきた未来の男から今後の人生についていろいろ聞く話ですね。自称未来人の男が藤子・F・不二雄の短編に出てくる「ヨドバ氏」を彷彿とさせていて、ターミネーター的な「転生ビジネス」を申し込んでくるという感じでしょうか。それだけでなく「死後の世界」というのも人間にとって未知の旅路であって、そこへ招待された主人公という解釈も成立するかなと思いました。また非常にどうでもいいのですが、「和幸」というととんかつチェーンだからカツ丼を食べていたのかなとか細かいところが気になってしまいました。自分は指摘されるまで「わこう」をずっと「かずゆき」だと思っていて、未だに馬鹿にされます。

 

chihiron-novel.hatenablog.com

chihiron-novel.hatenablog.com

 

 美しい箱入り娘と旅をする語り部の少年の物語ですね。最初に読んだ時は「男が女に夜通し語って聞かせるなら逆アラビアンナイトだなぁ」と思い、殺されないよう関係を終わらせないために語り続けたシェヘラザードに対して、こっちでは一晩限りで関係を断とうとして語っている。「旅物語」というのは閉鎖的な空間で重宝されるのであって、彼女が外に出てしまったら「物語」の効力は一体どうなるのか、というところに興味はあります。出来れば舞台を完全に中東風に仕立てあげて、このふたつの物語を過不足なく5000字で納めることができればなおよかったかなぁと思います。

 

lfk.hatenablog.com

 

 冒頭の「あっちで紛争が終わっただろ?」から一気に始まる日本にいて感じない非日常な空間に心動かされました。おそらく今回集まった作品の中で一番「旅」らしい作品かなと思います。旅の醍醐味としては、旅をしている人は非日常に飛び込んでいるのですが現地の人にとってそれが日常であると言うコントラストだと思うのです。未完であるので推測でしかないのですが、哲朗にとっては「旅先で出会った特別な人」になるのに対してコリーナにとっては「旅人A」であって「そこにいるそれっぽい人みんなに声をかけている」のかもしれないなぁと思いました。そんなわけでやっぱり完結させてほしいです、できれば5000字以内で。

 

kyoukonogokoro.hatenablog.com

 

 閉鎖的な村で育った少女の心の旅立ちの話ですね。呪術と言うことでわら人形にごっすんごっすんみたいなことを期待していましたが、どちらかというと「召喚」や「魔法」に近い考え方みたいですね。かんざしに「水の精」の呪を込めて祀っているのでしょうか、などと考えると止まらないです。こちらも閉鎖空間から外の世界へ飛び出すことを「旅」という形で表現していますね。また、「魔法使いサリーちゃんの最終回だ!」などと思いました。最後まで少女視点で物語が進行していたので、本来の村の必然的に閉鎖的な姿など隠れていなければならない大人の視点がどこかに入ると更に世界に深みが増すと思います。

 

masarin-m.hatenablog.com

 

 少年三人が山中に冒険に出かけるお話ですね。あらすじとしてはきちんと旅をしていて、この登場人物の内面でも思春期に向けた旅が始まっていると言う構図が心地よいですね。ズッコケ三人組ではないですが、キャラクターが違う三人がそれぞれの特徴を良くも悪くも見せながら先に進んでいく感じに安定感があります。まさりんさんの作品はどこを切っても安定感があるのがいいですよね。そしてこの作品を挙げるのもありきたりですが『スタンド・バイ・ミー』ですよね。主催者が実は『スタンド・バイ・ミー』をまだ見ていないと言うのはここだけの話です。怒らないで、近いうちに見るから。

 

 

fnoithunder.hatenablog.com

 

 観光列車の車掌と乗客のとあるエピソードですね。細かく見ていくと現実の情勢と少しずつ異なるのでIF系のお話として捉えました。主題は後半の少年少女のやりとりにあると思われるのですが、背景に設定されている「観光列車」そのものが現実の「地方創生」の名のもとに必死で町おこしをしている現状にも思えました。いくら地元がいい、最高だと言っても国を動かすような大きな流れには逆らえないのかもしれません。よく「地元の良さ」などと言うのですが、果たしてそれは何であるかをもう一度考えないといけないのかなぁなどと思います。

 

hayami-toyuki.hatenablog.com

 

 知らない場所に頑張って一人で行った小学生のお話ですね。とにかく無駄に不安になる。読んでいてこっちが焦ってくる。子供の視点からの街って保護者がいないと本当に怖いんですよね。ちびまる子ちゃんにも「おばあちゃんちに一人で行って迷子になる」っていう話が出てくるんですけど、あれのような感覚。そして大人の怖さのデフォルメがすごい。多分大人からすればただの犬を連れた「大人A」でしかないのに、子供から見ると怪物か何かのようで、更に警察は怖いと言う感覚がいい。そして全てがタイトルに帰結するのがいい。この話には多分この続きはない。たぶん、そういうのがいいんだと思う。

 

sakuramizuki20.hatenablog.com

 

 異類と少女の出会いと別れの話ですね。最後が「感動のお別れ!」にならなかったのは型をわざとはずしているようでよかったです。それから申し訳ないのですが、あとがきの「西洋風に見せかけて、思いっきり日本っていうのを狙いました」というのが気になりました。西洋のりんご飴はハロウィンなどの秋祭りに売られるもので、夏祭りで売られるのは日本独特なんですよね。あと「外食で焼肉」など細かい部分でかなり現代日本になっていました。ちなみに異類と出会う系と言えば主催者は数ヶ月前にガッツリ取り組んだので良ければ参考にしてみてください。

 

hjsmh.hateblo.jp

 

 取り壊し寸前に家に帰ってくることでよりいっそう旅を想起させるお話ですね。消化不良とのことでしたが、おそらくこの話の主題である実家の荒涼とした風景と、今回のテーマを強引に繋げた結果だと思われます。無理のない展開で行くならば、「親子旅行」を最初から全面に出して「カタログの中の楽しそうな旅行プラン」を荒涼とした実家で語るというのもアリだと思われます。取り壊し寸前の家の湿っぽさがかなり伝わってきたので、更に追い打ちをかけるようにコントラストになる事物を設置するとより悲惨な印象がプラスされるかなと思います。

 

nisinao.hatenablog.com

 

 眼球と旅をする少女の話ですね。文体から漂う「全体的に私は理解されたい」と思っていない感じが非常に魅力的でした。ところどころ独特な世界があって「ん?」と読者は思うけれど構わず先へ突っ走ると言うスタイルは個人的に好きです。ここで説明を求めては行けなくて、作者も喜んで説明をしてはいけないのだと思います。「これはこういう話!」という強固な文体が他者から独立した世界を創っていると思いました……と書いているうちに「桜の木の下の世界」でも同じような評をしていましたね。こりゃ参った。

 

nogreenplace.hateblo.jp

 

 最後に自作。旅と言いながら一歩も部屋を出ないという変則パターンを敷いてみたらみんなそんな感じだったと言うことでこの題材を後悔しています。今回は一人の人物の内面をどこまでも掘り下げると言う形式で話が進んでいます。例によっていろいろ仕掛けが盛り込まれているので探してみるといいと思います。

 

 

 

 

 そんなわけで毎月恒例の頑張ったで賞は「ぼろぼろぼろ - umakuittaraonagusami」、次点は「旅の記憶 - 平熱オフビート」です。頑張ったで賞の決め手はやっぱり誰にでもありそうな記憶の生々しい表現ですかね。そういう体験をしたことがなくてもそんな気分になれる、みたいなところはかなりいいです。次点はお話がお話の中で展開して、お話の中で終わっているところですね。あとアクの強い文体もいいです。個人的に川添さんをコンセプト賞にしたいのですが、未完と言うところが残念です。

 

 あと、特に今回はテーマがテーマなので仕方ないのですが、ここ数ヶ月は「俺たちの冒険はこれからだ! ご愛読ありがとうございました!」みたいな終わり方の作品が全体的に多い気がするので、できればキチンと物語を字数内で完結させるという癖をつけてもらいたいなぁというのが主催者のお願いです。外の広がりも大事なのですが、「広がらない強固な物語」にも意識をしてほしいなというところです。

 

 それではまた来月、次のテーマでお会いしましょう。

 

※今月の文章スケッチと怪談企画は20日が締め切りです!!!