短編小説の集い「のべらっくす」

こちらでの募集は休止になりました。今までありがとうございました。

【第9回】短編小説の集い とりまとめ

 雨に風に火山に地震、天変地異が続く日本列島ですが皆さん体は差し障りないでしょうか? せめて心の中は日本晴れでいたい、そんな主催者です。そんなわけで今月のとりまとめです。

 

f:id:zeromoon0:20150606195629j:plain

 

kannno-itsuki.hatenablog.com

 

 雨宿りから始まる過去と未来への折り合いのつけ合いのお話ですね。毎回トップバッターありがとうございます。Re:ボーイミーツガールという感じでこういう話は割と好きです。微妙な関係が雨を口実に距離が縮んで、することもないので過去へ戻り、雨が降っている現在に戻ってきても特に話が進むわけではない、でも確かに雨が近づけている……観客は「はやく言っちまえ!」と思っていても本人たちには大事な時間ですよね。意外と雨が止んだら夢のように醒めてしまうのかもしれないという含みが感じられました。

 

www.drinkerlife.com

 

 恋人の安否を気遣った過去を思い出すお話ですね。ご自身の経験を元に綴られているので、ここで主催者が物語の運びがどうのこうの言うのは野暮に近いのでしません。震災で安否不明と言えば、3.11で被災地ど真ん中にいた自分の身の周りでも情報が錯綜していて、自分に安否確認の連絡が届きまくったり、母に至っては「死んじゃったんじゃないかって眠れなくて眠れなくて」というメールが届いていました。ただ本人たちは生きるのに必死でそれどころじゃなくて、それは外と内の差なんだなということはつくづく今でも思います。

 

isseihaduki.hatenablog.com

 

 過去の出来事に心を痛める冒険者のお話ですね。なんとなく「お話を創る」ということに焦っている感じがしました。おそらく葉月さんの中では冒険者たちの容姿も性格も人間関係も再生できていると思うのですが、最初に全てを説明しようとし過ぎて「お話」がなくなってしまったのかな、という印象です。協力をしてドラゴンを倒した一瞬の喜びや、その後の絶望など心情をメインに据えてみるともう少し長いお話が書けると思います。あとテクニック的な話ですが、最後を「雨はあがった」にするとハッピーエンドっぽくなってしまうので、「雨はまだ降り続いている」という感じにするとよりカイトの暗い心が強調されていい感じになるかと思います。

 

literary-ace.hatenablog.jp

 

 気象を管理する世界の心温まるお話ですね。「もしこんな世界だったら」をライトな感じで表現できるのはいいですね。最近はやれ設定がどうのこうのとうるさい感じもあるのですが、こんな感じで「俺がやりたいのはコレ!」っていう感じでしっかりした世界を書ければそういう細かい齟齬は全く気にならないですよね。それもこれも「遠足の日が晴れますように」という子供たちの気持ちにスポットが当たっていて、それに応える優しい世界が確立されているからかなぁと思います。てるてる坊主の呪術性が近代的な管理社会と対応しているのが面白かったです。

 

novels.hatenadiary.com

 

 はじめましてこんにちは。男の子を好きになった女の子のお話ですね。「ほぼ自分の経験を文章にしている」ということなのであんまり突っ込んだお話はできないのですが、そのせいかたまに「ここで悩んでいる主人公」と「後から当時を思い出している主人公」が混在していてライブと録画を行ったり来たりしているような感覚を覚えました。思い切ってクラスの様子や主人公の境遇をバッサリと切り落とし、「男の子が好きになったどうしよう」という気持ちとプールで告白したところで物語をクライマックスにしてそのまま幕切れにするとドラマチックになると思いました。

 

lexotan-noix.hatenablog.com

 

 月島あすかシリーズの最新作ですね。あすかシリーズは「物語」というより「あすか」を如何に美しさを損なわずに生々しく「描写」できるかという境地に達していると思います。ストーリーだけ取り上げるとあすかが彼氏とセックスすると言うだけで、かといって「聖女になる売春婦系」とは方向性が完全に変わったのかなというのが今回の感想です。どちらかと言うとあすかには肉体と精神のズレがあって、あすかの魂がどこにあるのかを探していくある意味自分探し系になるんでしょうか。ちょっと今後に期待です。

 

donutno.hatenablog.com

 

 どこにも行けない行き場のない少年たちのお話ですね。 以前話題になった川崎の少年殺人事件が下敷きにあるような感じがしました。少年は未熟で、自分でなんとかしようとすればするほど周りの大人を信用しなくなっていくのが伝わってきました。文体が固いと思われるのは、短文が多くて句読点で句切られている部分が短いので硬質にとられると推察します。接続詞を加えて語りかけるように平仮名の量を増やすと文が長くなり、柔軟に読めるようになるのではないでしょうか。

 

xkxaxkx.hatenablog.com

 

 雨男になった男のあがきの不条理な話ですね。この不条理シリーズが好きなのは軽妙な語り口と、舞台は現代日本のはずなのにどこか他人事のように突き放しているせいで時代不肖の物語になっているせいだと思っています。時代性がないので、物語がやけに浮かび上がってくる。まるで神話のようで、このお話の最後に「神様は晴彦を天にあげ、星座にしました。今でも夜になると雲を追いかける晴彦の姿が明方の東南東の空に見えます」みたいな文を入れても違和感がないのです。純粋に人間を書いている感じがいいですね。

 

sakuramizuki20.hatenablog.com

 

 天気雨の中想い人のところへ嫁ぐことができなかった花嫁のお話ですね。古風な表現や唐突な妄想は話のアクセントとして面白かったです。みやこさんに関しては、家を背負う覚悟がイマイチないままお嫁に行く感じが現代的に感じました。花嫁に刀剣と言えば懐に刀を入れてお嫁に行く習慣から、今でも和装の花嫁衣裳には刀を模したものがついてきます。これは護身用だったり、いざというときのための自害用だそうです。それだけの覚悟がお嫁入りには必要だったのですね。

 

chihiron-novel.hatenablog.com

 

 雨女というせいでいじめられる女の子のお話ですね。雨のようにじめじめした陰湿な感じが伝わってきて面白かったです。実際にいじめのきっかけはこんな些細(?)な言いがかりから始まるというのも誇張されすぎない感じでよかったです。最後にスカッとした終わり方にするのであれば、自己完結ではなく理解者(強力な晴女、更に強力な雨男など)が現れて導く形にすると「いじめ、いじめられ」の二項対立にならずにバランスがとれたのかなと思いました。

 

kyoukonogokoro.hatenablog.com

 

 浅草を歩いた旅行記ですね。もしエッセイの体であれば、「これを読んでよかった!」と思うような中心軸を設定することが大事になってきます。写実的な建物の描写をメインにするのか、鬱屈な心理描写をメインにするのかで作品の軸が変わって、見栄えがかなり違ってきます。おそらく「書きたいことがあるけれど何が書きたいのかわかっていない」時期なのだと思います。そういう時はネタをじっくり寝かすのもいいって外山滋比古も『思考の整理学』で言っています。じっくり行きましょう。

 

yutoma233.hatenablog.com

 

 擬人化された気象たちのお話ですね。みどりの小野さんはとにかく「書きたい!」という勢いが文章に表れていて、とにかく意欲が伝わってくるのがいいですね。エネルギーがあるというか、やる気に満ちている感じがして「ああこれが書きたいんだな」というのがはっきりしているのは、短編小説としてかなり成功している部類だと思います。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」など小ネタがふんだんにちりばめられていて、楽しく読めました。ちょっと設定を盛り込み過ぎて消化しきれていない感じもしたので、もう少し説明を減らしてもいいのかなと思いました。

 

harubonbon.hatenablog.com

 

 雨の中で誰かを待つことに関するお話ですね。控え目に行っても一般的な感性ではなく、それでいて「私はこんなふうに特殊なんです」という媚びた説明もない感じに強いこだわりと個の確立を感じました。途中で絵里と照雄の気持ちの書きわけがついていない部分があったので、「あの人から影響を受けた絵里の心情」一本に絞って映画を撮るように書いてみると更に「あの人」の美しさが強調されると思いました。

 

fnoithunder.hatenablog.com

 

 はじめましてこんにちは。徹頭徹尾レースのお話ですね。まるで自分が操縦をしているようで、こういう臨場感たっぷりなお話もいいなぁと思いました。今回の作品の中でも「雨」を小道具としてかなり効果的に使っていて、大体は情景の一部にしたり雨独特の世界を書いているのですが、実はこの世界では雨は主役にならず、ただの一つの要因として自分の書きたいものをしっかり書いた感じがしました。しかし、「雨」がないとやっぱりこの話は成立しない。「書きたいもの」と「お題」の選定のバランスが非常によかったです。いや、本当に「題材選び」って大事だなぁと思いました。

 

bambi-eco1020.hatenablog.com

 

 学校から帰ってきて探検に行く子供たちのお話ですね。ストーリーのあるお話と言うより、わくわくする小ネタがたくさんつまった宝石箱のような作品です。牛乳ひげうまい棒などアイテムもいいですし、小さい妹も一緒に男の子の遊びに混ぜなければいけない、というのもなかなかかわいい「あるある」でした。「雨が降ってきて、遊びが終わりになる」というのも絵本の話にはよくあるパターンで、でもそれも遊びにしてしまう子供のバイタリティがいいなぁと思いました。

 

hjsmh.hateblo.jp

 

 雨に殺人寄生虫が潜んでいたら、というお話ですね。勝手にこのお話の続きを作ってみると、ここでヒロシパートが終わってタイトル。この殺人寄生虫は某国の細菌兵器でその陰謀を食い止めるために凄腕のスパイとターミネーターがバトルを繰り広げ、最終的に寄生虫の培養路にターミネーターが親指を立てて沈んでいく感じでしょうか。出来れば設定だけでなく、お話をきちんと完結できるといいのかなぁと思いました。

 

kimaya.hatenablog.com

 

 不倫旅行の最中に起こった出来事から自分をみつめるお話ですね。これとっても好きです。天気と連動して主人公の気持ちが上下するのがわかりやすく、ショッキングな出来事をきっかけに急変する物語の進み方もテンポがいいと思いました。更に複雑な主人公の心情を安易に決定して終わるのではなく、わざと誰からも突き放して終わるところも良かったです。細部にリアルさがないとのことでしたが、細部がないことで主人公の気持ちにクローズアップが自然とできて、良い意味で作用していると思いました。

 

yama-aki1025.hatenablog.com

 

 いじめられている同級生を見ているお話ですね。作品単体で見ると闇が深いのは他人の闇を繊細に感じ取る主人公のような気がするのです。いじめっこもいじめられっこも、初手はお互いの「闇」に非常に鈍感だったせいでいじめが発生したのかもしれませんね。いじめはいじめられる方に原因がある、というと「いじめられる方が悪い」と取られがちですが、「なんとなく目立つ」なども立派な原因なので「いじめられる方にも原因がある」は間違ってないと思います。そこから原因をどう取り除けるかが大事なのであって、根本的な原因究明を避けて「いじめるほうが全面的に悪い」というのも賢いやり方ではないと思っています。

 

masarin-m.hatenablog.com

 

 ケンジの退職エピソードとあの猫のお話ですね。単発で飽きっぽい自分と違い、毎回お題に合わせてひとつの一貫した世界を構築するまさりんさんはすごいなーと思います。心まで冷えそうな雨とまさりんさん独特の雑多な街の描き方がマッチして寒くなるやら暖かくなるやらといったところです。前半と後半で雰囲気を変えつつも作品の根幹である「居場所」の話に終始しているところもよかったです。個人的に最近見ない「湿気モク」という表現に少し時代を感じました。そろそろ死語になりつつありますね、これ。

 

hayami-toyuki.hatenablog.com

 

 はじめましてこんにちは。何やら不穏な来客の話ですね。最後まで来客の正体は明かされず、隠された主人公の現在にどんどんクローズアップされていく形は推理ドラマのようで面白いです。良かったのが最後まで背景の説明が一切なく、そのせいで不気味な雰囲気がさらに増しているところもよかったです。来客の正体は各自で考えておいてくれ、というところなのでしょうが個人的には全て安雄の妄想というところが無難かなぁと思っています。そしてこの話も全部追い詰められた安雄の夢。そんな気がしてしまいます。

 

kyoukonogokoro.hatenablog.com

 

 雨を降らせるのを阻止する側と自然のままにいるのが良いという側のお話ですね。気象をコントロールするというテーマは今回幾度となく登場しましたが、それは運命に逆らうのではないかということですね。颯が雨を憎む背景や雨の被害の様子などを盛り込むと、巫女に逆らおうとする颯に読者も共感出来て二項対立が生きてくると思いました。

 

kalkwater.hatenablog.com

 

 子供たちの冒険と、見たことのないものへの憧れのお話ですね。意外と「虹」を主に据えた作品は少なくて、色彩豊かに目の前が開けるような明るい世界が広がったのは嬉しい限りです。鳥獣戯画のワンシーンを宮沢賢治が書いたような世界もカルキ水さんの独壇場でのびのびしています。確か椎名誠も「この世界には信じられない光景がたくさんあって、それを若い人に直に見てもらいたい」みたいなことを書いていたのを思い出しました。

 

nogreenplace.hateblo.jp


 すみませんブログ移ってます。現代日本で『優しく雨ぞ降りしきる』がやりたかっただけです。『金魚姫』と同じようにモチーフをベタベタ張り付けまくった結果のお話ですので、興味のある方は読解してみてください。

 

 

 

 さて今月の頑張ったで賞は「私は家に帰りたい【短編】 - きまやのきまま屋」、次点は「カットスリック (第9回 短編小説の集い 参加作品) - 強靱化のすすめ」です。決め手は『私は家に帰りたい』は圧倒的に緩急がついて突き放した心理描写、『カットスリック』のほうは圧倒的な題材の勝利です。「何を書こう」と考えたところで結構お話の転がり方って決まってくるので広くアンテナを伸ばしましょう。

 

 それから「募集要項の三人称推奨の意義」が最近また曖昧になってきた感じがするのでもう一度ここで整理しておきます。一応主催者は純粋な「つくりばなし」を期待しています。その時「つくりばなし」を創るのに慣れていない人が一人称を選んだ場合、非常に書きやすいのですがその代わり「登場人物=自分」になりやすく、「つくりばなし」ではなく「作者のエッセイ」になりかねないのです。

 

 三人称を推奨する理由は「これはつくりばなしである」とまず作者のみなさんに自覚して頂き、虚構と現実を線引きして頂きたいためです。経験を元に書かれるのは良いのですが、その場合「つくりばなし」を期待する読み手はどこまで突っ込んで読んでいいのか戸惑ってしまうのですね。この辺に興味のある方は一昔前に流行ったケータイ小説がヒットした理由などを調べてみると良いと思います。

 

 それでは今月も感想記事をお待ちしています。他の人の記事の感想を書くのもかなり勉強になるので、レベルアップを望む人は「文章スケッチの広場」ともども挑戦してみてください。

 

 それでは作者のみなさんお疲れ様でした。また来月のお題でお会いしましょう。